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万葉歴史館に咲く万葉植物万葉歴史館に咲く万葉植物

キキョウ(あさがほ)
(万葉名:あさがほ)


【キキョウ科キキョウ属】
 
 
全国の山地や原野に自生する多年生草木。花が美しいのと薬用にも利用されることから広く栽培されている。秋の七草に選ばれているが、実際には盛夏の7月半ば頃に盛りを迎える夏の花である。青紫の花が一般的だが、薄い桃色の花や白花のほかに八重咲きもある。


キキョウ(あさがほ)1
朝顔は 
朝露
(あさつゆ)負ひて 
咲くといへど 
夕影
(ゆふかげ)にこそ 
咲きまさりけれ

      
 作者未詳(巻十・2104)         
 朝顔は
朝露をうけて
咲くというけれど、
夕方の光の中でこそ
いちだんと見事に咲いていることよ。
 
キキョウ(あさがほ)2
 あさがほの歌は『万葉集』中に5首見られる。あさがほは従来、キキョウ、ムクゲ、ヒルガオなどとする説があったが、現在はキキョウとする説が有力である。
 
 今日いうアサガオは、奈良時代にはまだ渡来していない。キキョウは、いかにも朝、顔出す花―朝顔といわれるにふさわしく、みずみずしく清楚で初々しい。「朝露に濡れて咲く」と歌われるとおりである。しかしこの作者は、「夕方の光の中でこそ、より美しく咲く」といっている。万葉には「夕影草」という美しい言葉がある。夕方の光の中にそよぐ草のことだが、この作者は、まさに「夕影草」としてのキキョウの美しさを発見し、あさがほという名前に不満を表明したのである。もちろん心からの不満ではない。朝にも夕にも美しいキキョウをいいたかったから、朝だけに片寄せてしまうことがおかしいというのだ。
 
 それほどに、深い藍色をたたえた品格の高いキキョウを、万葉人は愛したのである。


〜朝顔の歌、他4首〜
(はぎ)の花 尾花葛花(おばなくずばな) なでしこの花 
       をみなへし また藤袴
(ふじばかま) 朝顔の花 
  

山上憶良(巻八・1538)

[荻の花、薄、葛の花、撫子、女郎花、藤袴、朝顔の花。]


(こひ)(まろ)び 恋ひは死ぬとも いちしろく
       色には出
(い)でじ 朝顔の花
                

作者未詳(巻十・2274))

[身もだえして恋に苦しみ、死ぬようなことがあろうとも、はっきりした態度に出して人には知られまい。朝顔の花のようには。]


言に出(い)でて 言はばゆゆしみ 朝顔の 
       秀
(ほ)には咲き出ぬ 恋もするかも        

作者未詳(巻十・2275)
 
[言葉に出して言ったら恐ろしいので、朝顔の花のように人目をひくことのない恋もすろことだ。]


わが愛妻(めづま) 人に離(さ)くれど 朝顔の 
       年さへこごと 吾
(わ)は離(さ)かるがへ
         

東歌(巻十・3502)

[
私の愛しい妻を人は離そうとするけれども、朝顔が毎年からまるように私はどうして離れよう。]

※このページは2007年館務実習生Sさん(東洋大学学生)が作成しました。