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研究員ブログ
氷見市宮田公民館制作ジオラマ「布勢の海」~大島秀信「藤波」秘話(田中夏陽子)
2026年04月08日

昨年は富山県でユネスコが支援する「世界で最も美しい湾クラブ」の総会が開かれた。それに合わせて、坂本館長が会長の「万葉の海を考える会」は富山湾クルーズを開催。令和効果で九〇人の定員がすぐに埋まる盛況ぶりで、台風が心配されるなか七尾港から伏木小矢部川右岸までのクルーズも無事終了。関課長補佐研究員と元研究員の垣見修司同志社大学教授による案内で、氷見・伏木の故地めぐりもおこなれた。
クルーズに合わせて、当館でも「家持の海」と題した回廊展示を行ったが、平成二十五年に関研究員のアイデアで氷見市宮田公民館(前田週二館長)が制作したジオラマ「布勢の海」を展示させていただいた。
このジオラマは、昨年三月に大伴家持生誕一三〇〇年を記念して氷見市立博物館で行われた特別展「万葉集に詠まれた『ひみ』」にも出展されており、最終日にジオラマの地質学監修をされた松島洋先生とお話することができた。
松島先生は、氷見市史の地質学を担当された方で氷見市文化財審議会会長も務められ、令和元年度には地域文化功労者となられた。当館研究員だった故川崎重朗先生の高校教諭時代の同僚であった。そうしたことから、平成二十年に当館で開催した「大島秀信 越中万葉の情景」の代表作「藤波」制作の際、ご助言いただいたことがあった。
大島先生といえば立山の作品が有名だが、新たなモチーフを描くことに意欲的な方で、個展開催にあたって「藤波の影なす海の底清み沈く石をも玉とそ我が見る」(巻十九・四一九九番)の歌を選ばれ、新作を描いてくださった。
しかし、制作中、歌にうたわれている石の大きさがわからないとイメージが決まらない、大きさを教えて欲しい、というご質問を頂いた。布勢の水海の石の大きさなど考えたこともなかったので、途方にくれた。心配した川崎先生は、すぐさま松島先生に相談。「布勢の水海の石はこぶし大の石で」という助言を頂くことができ、「藤波」は完成した。
実はそれ以来、「布勢の水海は広いし、どこの石なのだろう」と密かに疑問を抱いていた。そこで、会場にいらした松島先生に大島先生の「藤波」のお話したら、当時のことを鮮明に覚えていてくださり、ジオラマを指さしながら、「泉川から流れてきて布勢の水海に注いだもの。布勢の水海は、基本泥や砂。石らしい石は泉川の河口にあたる上泉や宮田付近にしかない」と端的にお答えくださった。
泉川は、大師ヶ岳・二上山を水源とする小さな河川だか、島尾付近で天井川になっており、治水工事が行われている(富山県「泉川水系河川整備計画」平成二十六年二月)。
当館に勤めて二十年経つが、十年越しの謎が解けるのは楽しい。
(田中夏陽子)
「万葉を愛する会だより」87号より
(発行日:令和2年1月20日)
大島秀信「藤波」(当館蔵)
ジオラマ「布勢の海」(氷見市宮田公民館制作)
【当館研究員の研究活動】


