高岡市万葉歴史館
〒933-0116 富山県高岡市伏木一宮1-11-11
(とやまけん たかおかし ふしきいちのみや)
TEL:0766-44-5511 FAX:0766-44-7335お問い合わせ

まんれきブログ -
日めくり万葉集ブログ-万葉からMANYOへ-

第4回 「をつ」ということば(藤原茂樹)

2023年07月30日

 

天橋(あまばし)も 長くもがも

高山も 高くもがも

月読(つくよみ)の 持てるをち水

い取り来て 君に奉(まつ)りて 

をちえてしかも (巻十三3245)

 

 

天橋文 長雲鴨 高山文 高雲鴨 月夜見乃 持有越水 伊取来而 公奉而 越得之旱物

天に昇る橋も もっと長かったらなあ

高い山も もっと高かったらなあ

月読みの持っているをち水を 取ってきて あなたに差し上げ 

若返らすことができるのになあ

 

 

 「持有越水」の訓につき、契沖(けいちゅう)はモテルコシミヅ、賀茂真淵(かものまぶち)はモチコセルミヅとしていた。

 ヲツと訓むようになったのは荒木田久老(あらきだひさおゆ)と鹿持雅澄(かもちまさずみ)であったが、諸説定まらずにいた。

 ニコライ・ネフスキーは宮古島方言「シヂユン」の正しい用語例を示した。折口信夫は、沖縄の真の初春にあたる清明節の朝汲む水が「節(しち)のシヂ水」「節の若水」と言われるのは、日本の正月の若水と同じく、若返る水と考えてよいとする。ただ、ネフスキーの示したシヂユンの語が、蛇や蟹の脱皮を意味すること(死んだように静止したものからまた新しい生命活動が始まること)からすると、このことばには、「若返る」意味に近づく前に「よみがえる」意味があり、さらにその原義として外来威力を受けて出現する用語例があった、日本のヲツもそれにあたると推測した。

 現在、『万葉集』の訓読は、変水(をちみず)(巻四627、628)、変若反(をちかへり)(巻六1046)、変若(をち)益(まし)尓家利(にけり)(巻四650)、変若(をつ)云(といふ)水(みづ)(巻六1034)と統一がなされるに至っている。

 

宮古島に伝わる話の概要はつぎのようなものです。

月の青年が、天の神から、人間には生き水をかけるようにと命じられました。青年は生き水と死に水を天秤にかついで月から降りてきましたが、ちょっと休んでいる間に、もってきた「生き水」を蛇が浴びてしまい、仕方なく人間には「死に水」を浴びせることになりました。そのために、人間は命にかぎりある運命となり、蛇はなんども脱皮して生まれかわることになりました、水を運んだ月の青年は、うっかり失敗をしたために、神様に罰せられていまも月の中で立たされているのです。

このような内容の昔話を、宮古島の昔話コンクールで優勝した当時(2011年)小学生の仲宗根さんが宮古方言のまま語ってくれました。

天のかんがなすと 月のかんがなすあ 人間ぬぎゃあ いつまでいまい 

ながいきゃあーひいー あすみだから ならんていーうむいー

正直青年ぬ天かい ゆらいたっちゃ 

(意訳)天の神さまは、人間の命を幾代までも末永くいきさせようと思い、正直者を天にお呼びになりました

以上 仲宗根妃菜さんの語った宮古島の昔話の一節(『日めくり万葉集VOL22』2011年12月講談社)より 

(藤原茂樹)

  • 「日めくり万葉集ブログ-万葉からMANYOへ」は、毎月10・20・30日に投稿予定です。