まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
032回「東の風 いたく吹くらし 奈呉の海人の」
2020年12月11日

あゆの風が
激しく吹いているらしい。
奈呉の海人たちの
釣りをする小さな舟が
漕ぎ進むのが、高波のあいだから見え隠れしている。
東の風(あゆのかぜ) いたく吹くらし 奈呉(なご)の海人(あま)の 釣する小舟(をぶね) 漕(こ)ぎ隠(かく)る見ゆ
大伴家持(巻17・四〇一七)
「奈呉の海」は現在の射水市(いみずし)放生津町(ほうじょうづまち)のあたりの海といわれています。
家持がその浜辺を歩いていると、沖合いでは風が強く吹いているらしく、高い波が立っていました。その海に、釣り人の乗った船が木の葉のようにゆられながら、波の間に見えたり隠れたりしているのです。それは奈良の都から来た家持にとって、とてもめずらしい風景に思え、歌に詠みました。
富山県では今も、海上から陸地に向かって吹いてくる風をアイ、アイノカゼなどと呼びます。
家持が越中の方言に興味を感じて、歌に取り入れたのでしょう。(垣見修司)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。