まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
037回「鸕坂河 渡る瀬多み この我が馬の」
2021年01月22日

鸕坂川(うさかがわ)には
渡る瀬がいくつも流れているので、
このわたしの乗る馬の
足がかきあげる水しぶきで、
着物がすっかり濡れてしまった。
鸕坂河(うさかがは) 渡る瀬多(おほ)み この我(あ)が馬(ま)の 足掻(あが)きの水に 衣(きぬ)濡れにけり
大伴家持(巻17・四〇二二)
第36回の歌に続いて天平二十年(七四八)の春の「出挙(すいこ)」による越中国内巡行の旅の時の歌で、「礪波郡(となみぐん)」から東へと進み、「婦負郡(めいぐん)」で詠んだ歌です。
「鸕坂河」は、現在も地名が残る富山市婦中町(ふちゅうまち)鵜坂(うさか)の東側を流れる神通川(じんづうがわ)の古い呼び名とするのが一般的です。
しかし、雪が解けて増水している時に神通川のような大河を渡るのは危険です。そのため、鵜坂の地の西側を流れる神通川支流の井田川(いだがわ)を「鸕坂河」とする説もあります。
いずれにせよ、川を渡る場所の瀬までもが増水していたというこの歌は、越中の雪解け水の多さを伝える貴重な歌なのです。(新谷秀夫)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。