まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
042回「奈呉の海に 舟しまし貸せ 沖に出でて」
2021年02月25日

奈呉(なご)の海に出るのに、
舟をしばらくの間貸してください。
沖に出て、
波が立って来ないかと
見て帰って来ましょう。
奈呉の海(なごのうみ)に 舟しまし貸せ 沖に出(い)でて 波立ち来(く)やと 見て帰り来(こ)む
田辺福麻呂(たなべのさきまろ)(巻18・四〇三二)
天平二十年(七四八)三月二十三日(太陽暦の四月二十九日)、左大臣橘諸兄(たちばなのもろえ)の使者として都からやって来た田辺福麻呂を歓迎する宴会が家持の館でおこなわれました。
当時、このような宴会では、歓迎される客人と主人とがまず最初に挨拶の歌を詠んで宴会をはじめるのが決まりでした。
家持が住んでいた館は、現在高岡市伏木気象資料館がある場所にあったと考えられています。その館から「奈呉の海」(射水市(いみずし)から高岡市伏木(ふしき)にかけての海のこと)が見えたのでしょう。福麻呂は、そのおだやかな海を歌に詠んで歓迎会に対する感謝をあらわしました。(新谷秀夫)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。