まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
047回「垂姫の 浦を漕ぐ舟 梶間にも」
2021年04月03日

垂姫の
浦を漕ぐ舟の
櫂(かい)を取るほどの、わずかな間でさえも、
奈良のわが家を
忘れてしまったりするものか。片時も忘れられないものだ。
垂姫(たるひめ)の 浦を漕ぐ舟 梶間(かぢま)にも 奈良の我家(わぎへ)を 忘れて思へや
大伴家持(巻18・四〇四八)
天平二十年(七四八)三月二十五日(太陽暦の五月一日)、橘諸兄(たちばなのもろえ)の使者田辺福麻呂(たなべのさきまろ)とともに布勢の水海(ふせのみずうみ)を舟に乗って遊覧した時の歌です。
布勢水海を訪れた福麻呂は、「垂姫の崎」を
「見れども飽(あ)かず いかに我(われ)せむ」 (四〇四六)
見ても見飽きることがない、私はどうすればいいでしょうか
と讃美しました。
「見れども飽かず」は、伝統的な土地讃美の表現です。その讃美を受けて家持は、垂姫の浦での遊覧楽しさの間も、都にある奈良の家のことを忘れることがないと応えたのです。都から来た福麻呂が越中の土地を讃え、越中にいる家持が都のことを歌い、心を通わせたのです。(関隆司)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。