まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
052回「朝開き 入江漕ぐなる 梶の音の」
2021年05月07日

朝早く港を出て
入江を漕いでいる
舟の櫂(かい)の音のように、
しきりに
わが家のことが思われる。
朝開(あさびら)き 入江(いりえ)漕(こ)ぐなる 梶(かぢ)の音の つばらつばらに 我家(わぎへ)し思ほゆ
山上臣(やまのうえおみ)(巻18・四〇六五)
射水(いみず)郡の「駅館(やくかん)」の柱に書き記されていた歌で、舟が進むあいだはツバラツバラと櫂(かい)を漕ぐ音が止まないように、「つばらつばら」(しみじみと)わが家のことが懐かしく思われると、旅先での寂しさを歌っています。
駅館は駅家(うまや)とも言われ、仕事で旅をする人が休憩したり、乗っていた馬を交換するために、都と地方の役所を結ぶ道(沿いに等間隔に設置されていた施設です。
この歌の作者は「山上臣(やまのうえのおみ)」とあって、詳しい名前はわかっていませんが、この歌を書き残した家持は、父(大伴旅人)と親しかった山上憶良(やまのうえのおくら)の息子の歌かもしれないと考えていたようです。(新谷秀夫)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。