まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
055回「ぬばたまの 夜渡る月を 幾夜経と」
2021年05月28日

(ぬばたまの)
夜空を渡ってゆく月を見て、
もう幾夜経(た)ったかと数えながら、
いとしい人は
わたしを待っていることだろう。
ぬばたまの 夜渡(よわた)る月を 幾夜経(いくよふ)と 数(よ)みつつ妹(いも)は 我(われ)待つらむそ
大伴家持(巻18・四〇七二)
『万葉集』の目録に前歌とこの歌について「大伴家持重ねて作る二首」とあり、前歌と同じ天平二十一年(七四九)の淸見(せいけん)送別の宴の作と判ります。
左注に「此(こ)の夕月(ゆふへ)光遅(おそ)く流れ、和風梢(やくや)く扇(あふ)ぐ」(この夜月光はゆるやかに流れ、のどかな風がゆっくりと吹いている)と記しています。
夕暮れ頃に見え始める月は満ちてゆく月。「遅く流れ」と月の沈むのがゆっくりとしていることを考えると、満月に近付いた三月十日頃の月でしょう。
「数(よ)む」とは、ここでは日数を数えること。天平十八年の赴任から、妻と別れてすでに二年八ヶ月を過ぎていました。(坂本信幸)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。