高岡市万葉歴史館
〒933-0116 富山県高岡市伏木一宮1-11-11
(とやまけん たかおかし ふしきいちのみや)
TEL:0766-44-5511 FAX:0766-44-7335お問い合わせ

まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~

067回「春の苑 紅にほふ 桃の花」

2021年08月20日

春の庭園が

紅色に美しく照り映(は)えている。

桃の花の

下まで咲き照る道に、

出てたたずむ娘子よ。

 

 

 

 

 

 

 

春の苑(その) 紅に(くれなゐ)ほふ 桃の花 下照(したで)る道に 出(い)で立つ娘子(をとめ)

大伴家持(巻19・四一三九)

 

 越中秀吟と称される巻十九冒頭歌群(四一三九~四一五〇)の最初の歌。

 題詞(だいし)に、

天平勝宝二(てんぴょうしようほう)年三月一日の暮に(ゆふへ)、春苑桃李(しゅんゑんたうり)の花を眺矚(てうしょく)して作る二首

とある第一首目です。

 三月一日は太陽暦では四月十五日にあたります。「桃李の花」は桃と李(すもも)の花で、この歌の紅の桃の花と対称的に、第二首は白い李の花を詠んでいるのです。

 「春の苑」は漢語「春苑」の訓読語で集中唯一例です。「にほふ」は色が美しく照り映える意。「下照る道」は桃の花が咲いて樹下までも紅に明るむ道で、そこに華やかな若い娘子が出て佇(たたず)んでいる絵画的で幻想的な美をもつ名歌です。(坂本信幸)

 

 

 

 

【さらに詳しく知りたい方へ】

高岡市万葉歴史館編

『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』

笠間書院・2014年刊

フルカラーA5判・128頁・定価1000円

 

 

※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。