まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
069回「春まけて もの悲しきに さ夜ふけて」
2021年09月02日

春になって
なんとなく悲しい時に、
夜も更けてから
羽ばたきながら鳴く鴫(しぎ)は、
誰の田んぼに住みついているのであろうか。
春まけて もの悲しきに さ夜ふけて 羽振(はぶ)き鳴く鴫(しぎ) 誰(た)が田にか住む
大伴家持(巻19・四一四一)
第67回や68回の歌と同じ天平勝宝(てんぴょうしょうほう)二年(七五〇)三月一日に作られました。越中秀吟(えっちゅうしゅうぎん)の第三首目になります。
この前の年、家持が敬愛していた聖武天皇が譲位(じょうい)し、女性である孝謙天皇が即位しました。都を離れて四度目の春を迎えた家持は、時代の変化を敏感に察して、あせり始めていたのかもしれません。
決まったすみかを持たない渡り鳥であるシギの声に、将来への不安を聞きとっているかのようです。
「もの悲し」ということばは、思い当たる理由もなく悲しい気持ちになることを表します。繊細な家持らしいことばです。(井ノ口史)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。