まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
073回「杉の野に さ躍る雉 いちしろく」
2021年10月11日

杉林の野で
はねまわるきじよ、
おまえは、はっきりと人に知られるほどに
声をあげて泣く
隠り妻(こもりづま)だというのか。
杉の野に さ躍(をど)る雉(きぎし) いちしろく 音(ね)にしも泣かむ 隠り妻(こもりづま)かも
大伴家持(巻19・四一四八)
越中秀吟の中の一首で、天平勝宝二年(七五〇)三月二日の日付をもつ歌です。
周囲に認められていない恋人のことを「隠り妻」と呼びます。キジもまた、人間と同じように秘密の恋の相手を思い、声を上げて鳴くのだろうと想像しているのです。求愛の行為を「さ躍る」という動きで表現する家持は、鋭い観察力の持ち主であるといえるでしょう。
かつては、越中国庁のあった勝興寺(しょうこうじ)付近から二上山の麓(ふもと)にかけて、杉木立のある笹原が広がっていたといいます。そこにすむキジは、家持にとって親しい生き物だったのでしょう。(井ノ口史)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。