まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
076回「奥山の 八つ峰の椿 つばらかに」
2021年11月12日

奥山の
峰々に咲くつばきの名のように、
「つばらかに」
今日一日楽しくお過ごしください、
ますらおたちよ。
奥山の 八つ峰(やつを)の椿 つばらかに 今日(けふ)は暮らさね ますらをの伴(とも)
大伴家持(巻19・四一五二)
「八つ峰」という語は集中で全八例。そのうち四一四九を最初として七例が家持の使用で、家持の好んだ用語です。
「椿」は、仁徳天皇(じんとくてんのう)を讃えた磐姫皇后(いわのひめこうごう)の歌に、
……葉広(はびろ) 斎つ真椿(ゆつまつばき)
其(し)が花の 照り坐(てりいま)し
其(し)が葉の 広り坐(ひろりいま)すは
大君(おほきみ)ろかも (記五七)
と歌われたように、呪力をもつめでたい木とされていました。
そのツバキを序詞に用いて、「つばらかに」を導き、「今日」の歓(かん)を尽くそうというのです。題詞(だいし)によると、その今日とは「三月三日」。上巳(じょうし)の宴、曲水(きょくすい)の宴が催される日でした。家持は部下たちを招き、上巳の宴を楽しんだのです。(坂本信幸)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。