まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
091回「あゆをいたみ 奈呉の浦廻に 寄する波」
2022年03月09日

あゆの風が激しく吹いて
奈呉の浦辺に
寄せる波のように、
ますますしきりに
恋しく思いつづけています。
あゆをいたみ 奈呉の浦廻(なごのうらみ)に 寄する波 いや千重(ちへ)しきに 恋ひわたるかも
大伴家持(巻19・四二一三)
海から吹きつける風を、越中国のことばで「あゆ(の風)」と呼びます。普段はおだやかな浜辺に、激しく白波がうち寄せる風景を見て、家持は感動したのでしょう。「奈呉の浦廻」とは、勤務先である国庁(こくちよう)からほど近い、射水河(いみずがわ・現在の小矢部川[おやべがわ])河口付近から射水市新湊の放生津潟一帯にかけての海浜を指します。
天平勝宝二年(七五〇)五月、平城京で暮らす親戚の女性のもとに贈った歌のようです。波が絶え間なく浜辺にうち寄せるように、繰り返し、あなたのことを思います、という、離れて暮らす相手を思いやる家持の優しさが伝わってくる歌です。(井ノ口史)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。