まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
095回「あしひきの 山のもみちに しづくあひて」
2022年04月06日

(あしひきの)
山のもみじが、
時雨のしずくとともに
散る山道を、
あなたは越えて行くのですね。
あしひきの 山のもみちに しづくあひて 散らむ山路を 君が越えまく
大伴家持(巻19・四二二五)
天平勝宝二年(七五〇)、十月十六日(太陽暦の十一月二十三日)の作。国政状況の報告書を持参する仕事のため、都に向かう部下・秦伊美吉石竹(はだのいみきいわたけ)の送別の宴会で詠まれました。
平城京にたどり着くまでには、いくつもの峠を越えて行かなければなりません。北陸地方では、はやくも冬の寒さが訪れるころです。とくに、敦賀(つるが)・今庄(いまじよう)間の南条山系や近江の愛発(あらち)山の辺りは道も険しく、降水量の多い地域でした。体の芯まで凍えさせるような冷たい雨の中、山道をたどる部下のことを心配する、家持の思いやりが感じられる歌です。(井ノ口史)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。