まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
099回「しなざかる 越に五年 住み住みて」
2022年05月07日

(しなざかる)
越の国に五年
住み続けて、
立ち別れるのが
名残(なごり)惜しい今夜であることよ。
しなざかる 越(こし)に五年(いつとせ) 住み住みて 立ち別れまく 惜しき宵かも
大伴家持(巻19・四二五〇)
天平勝宝三年(七五一)七月十七日、家持は少納言に転任することが決まり、都へと旅発つ前夜の八月四日、次官の内蔵忌寸縄麻呂(くらのいみきなわまろ)の館で催された公式の餞別の宴での歌です。
「しなざかる」は「越」の枕詞。「住み住みて」には長年住んだ土地を去る感慨がこもっています。
父旅人(たびと)が大納言を兼任し都に戻る時の送別の宴で、山上憶良が、
天(あま)ざかる 鄙(ひな)に五年(いつとせ) 住まひつつ 都のてぶり 忘らえにけり
(巻5・八八〇)
と歌ったことがありました。家持の心にはこの歌が思い浮かべられていたことでしょう。(坂本信幸)

平成27年10月4日建立の勝興寺門前の大伴家持像とこの歌の万葉歌碑。地元住民でつくる伏木地区まちづくり協議会(古市義雄会長)らによる。像は梶原製作所、台座と歌碑は高岡石材工業が製作。歌は橘慶一郎衆院議員の揮毫。写真は令和3年5月30日開催第9回越中万葉ウォークより。黄色いジャンパーが坂本信幸館長。
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。