高岡市万葉歴史館
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まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~

110回 大伴家持の長歌・その10~ホトトギスとフジ~【最終回】

2022年07月27日

杉山邦雄撮影「藤襲」万葉のふるさと高岡フォトコンテスト平成28年入選

 

夕月夜 かそけき野辺に

はろはろに 鳴くほととぎす

夕月の光のかすかに照らす野辺に

はるかに遠く鳴くほととぎすが…

 

 家持はホトトギスをことのほか愛しました。ホトトギスの歌は『万葉集』に150首ほどあり、動物の中では最も詠まれていますが、そのうち家持が詠んだ歌は60首ほど。彼の歌数は473首ですから、割合の高さが分かります。

 この長歌では、まず朝の支度をする少女の姿を描き、それを序としてホトトギスを導き出し、そのホトトギスが触れるフジの花を愛でて袖にしごき入れた、と述べます。さわやかさと落ち着いた美しさが感じられる作で、「染まば染むとも(色が染まるなら染まってもよいと思って)」と風流な面もあわせ持っています。

 越中時代の家持はホトトギスを43首の歌に詠んでいます。都よりも二上山のふもとの越中国府の方がホトトギスの声はよく耳にできたのでしょう。高岡市万葉歴史館も二上山のふもとにあります。初夏の時期、家持が聞いたホトトギスの声をぜひ聞きにいらして下さい。(鈴木崇大)

 

 

霍公鳥(ほととぎす)と藤の花とを詠む一首 并せて短歌

ほととぎすと藤の花を詠む歌一首 と短歌

 

桃の花 紅(くれなゐ)色に

桃の花のような紅色に

にほひたる 面輪(おもわ)のうちに

輝いている顔のなかに、

青柳(あをやぎ)の 細き眉根(まよね)を

青柳のような細い眉を下げて

笑(ゑ)みまがり 朝影見つつ

ほほえみ、朝の姿を写して見ながら、

娘子(をとめ)らが 手に取り持てる

少女たちが手に取っている

まそ鏡 二上山(ふたがみやま)に

鏡の、その箱のふたではないが、その二上山に、

木の暗(くれ)の 茂き谷辺(たにへ)を

木陰が暗くなるほどに茂った谷のあたりを

呼びとよめ 朝飛びわたり

鳴き響かせて朝に飛び渡ってゆき、

夕月夜(ゆふづくよ) かそけき野辺(のへ)に

夕月の光のかすかに照らす野辺に

はろはろに 鳴くほととぎす

はるかに遠く鳴くほととぎすが、

立ち潜(く)くと 羽(は)触(ぶ)れに散らす

その下を飛びくぐっては羽を触れて散らす

藤波の 花なつかしみ

藤の花がいとおしくて、

引き攀(よ)ぢて 袖に扱(こ)入(き)れつ

引き寄せて袖にしごき入れた。

染(し)まば染むとも

色が染まるなら染まってもよいと思って。

 

(巻19・四一九二)

 

 

【さらに詳しく知りたい方へ】

高岡市万葉歴史館編

『越中万葉百科』

笠間書院・2009年刊

458頁・定価2600円(税別)

 

 

※引用した歌本文は、上記の『越中万葉百科』によります。