高岡市万葉歴史館
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まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~

109回 大伴家持の長歌・その9~越前の池主へ~

2022年07月20日

君と我れと 

隔てて恋ふる 礪波山

 

あなたとわたしとを

隔てて恋しく思わせる礪波山…

越中時代の家持にとって、部下で同族の池主の存在はとても大きなものでした。2人は都にいた時からすでに知り合いでしたが、ともに国司として越中で再会したことで仲を深め、歌を通じて心を通わせ合いました。

池主は、家持が来越して3年めの春にはとなりの越前国(この頃の領域は、現在の石川県加賀地方および福井県東部)に転勤してしまいますが、国を隔てながら2人は歌を贈り合います。今回取り上げるのはその中の一首です。「ホトトギスが鳴くようになった、しかし1人でその鳴き声を聞くのは寂しいから、「礪波山(現在の倶利伽羅山)」を飛び越えて、あなた(池主)のところでも安眠できないほどに鳴いておくれ」と詠んでいます。

 家持と池主とのやりとりにおいて、男女の贈答に見えるほどの愛情表現が特徴です。あくまでも歌の上でのことなのか、それとも実際に深い関係であったのかは不明です。(鈴木崇大)

 

四月三日に、越前の判官(はんぐわん)大伴宿禰池主に贈る霍公鳥の歌、感旧(かんきう)の意(こころ)に勝(あ)へずして、懐(おもひ)を述ぶる一首 并せて短歌

四月三日に、越前の判官大伴宿禰池主に贈ったほととぎすの歌で、過ぎた日を懐かしむ気持ちに耐えかねて思いを述べた歌一首 と短歌

 

わが背子(せこ)と 手携(たづさ)はりて

あなたと仲良く手を取り合って、

明けくれば 出で立ち向かひ

夜が明けると外に出て向かい合い、

夕されば ふりさけ見つつ

夕方になると振り仰いで見ては、

八つ峰(を)には 霞たなびき

峰々には霞がたなびき、

谷辺には 椿花咲き

谷のあたりにはつばきの花が咲いて、

うら悲し 春し過ぐれば

もの悲しい春が過ぎると、

ほととぎす いやしき鳴きぬ

ほととぎすがしきりに鳴くようになった。

ひとりのみ 聞けばさぶしも

でも、ひとりだけで聞くのは寂しい。

君と我れと 隔てて恋ふる

あなたとわたしとを隔てて恋しく思わせる

礪波山(となみやま) 飛び越え行きて

礪波山を飛び越えて行って、

明け立たば 松のさ枝に

夜が明けたら松の枝に、

夕さらば 月に向かひて

夕方になったら月に向かって、

あやめ草 玉貫くまでに

あやめ草を玉に通す五月になるまで

鳴きとよめ 安眠(やすい)寝(ね)しめず

鳴き立てて、安眠させないように

君を悩ませ

あなたを悩ませるがよい。

(巻19・四一七七)

 

 

【さらに詳しく知りたい方へ】

高岡市万葉歴史館編

『越中万葉百科』

笠間書院・2009年刊

458頁・定価2600円(税別)

 

 

※引用した歌本文は、上記の『越中万葉百科』によります。