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第1回 巻一冒頭の雄略天皇歌(坂本信幸)

2023年07月01日

籠(こ)もよ み籠持ち

ふくしもよ みぶくし持ち

この岡に 菜摘ます児

家告(の)らせ 名告らさね

そらみつ 大和の国は

押しなべて 我こそ居(を)れ

敷きなべて 我こそ居れ

我こそば 告らめ 家をも名をも

雄略天皇(巻1・一)

〔現代語訳〕

籠(かご)も、立派な籠を持ち、ヘラも立派なヘラを持ち、この岡で春菜を摘んでおられる娘さん。家をおっしゃい、名をおっしゃいな。(そらみつ)大和の国は、押し靡かすように私が支配している、敷き靡かすように私が支配している。私こそは、名告ろう。私の家も名前も。

 

 春の始めにまず行われる古代の行事に「春山入り」があった。それは村の老若男女が始めて集団的な生活を営むことのできる行事であり、花や青葉を見て生命を蘇らせ、春菜を摘み粥を作って共同飲食したり、歌舞に興じたり、男女の交遊を楽しんだりした。

 菜を摘む娘子に求婚するこの歌は、春山入りの習俗を背景として成立した歌といえるが、支配者としての天皇の歌であり、「そらみつ 大和の国は 押しなべて 我こそ居れ 敷きなべて 我こそ居れ」とこの国土の支配者であることを述べて、「我こそば 告らめ 家をも名をも」と名告りをするところに意味がある。生殖は豊年に繋がる。天皇の求婚は豊年の予祝の意が込められている。国土支配者としての天皇の歌を冒頭に掲げ、祝賀としたのである。

(坂本信幸)

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