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第7回 ほととぎすの鳴き声と名前と(藤原茂樹)

2023年08月30日

信濃なる

すがの荒野に

ほととぎす

鳴く声聞けば

時過ぎにけり

  

 

信濃奈流 須我能安良野尓 保登等藝須 奈久許恵伎氣婆 登伎須疑尓家里

(巻十四3352)

信濃の国にある須我の荒野に泣き始めたほととぎす

その声を聞くと もう時は過ぎ去ってしまったんだなあ

 

 万葉集の鳥で最も多く詠まれた「ほととぎす」は、二種の書き方をもつ。本歌の「保登等藝須」は一字一音の表記法だが、集全体の三分の二の表記法は「霍公鳥」で統一される。これは漢籍の「郭公」の影響を受けながらも万葉集独自の表記である。そこに洗練がみえる。「」の字義はあわただしく飛ぶ声を意味する。雨の日はふりたてて鳴き、月夜に声を輝かせ、暁を轟かす鳴き声に、人々は耳を傾けた。

 万葉集では、

うぐひすの 卵(かひこ)の中に 霍公鳥 ひとり生まれて~ (巻九1755)

とその託卵性を観察してもいるが、その鳴き声で、懐古を催し(112、1956)、恋しさをつのらせ(1475)、草取りや農耕に向かう(1942~3,4172)などする。ただ、多くは風雅な感性で詠まれ、立夏を待ち、鳴き声の遅さを恨み、聞くを厭(いと)い、橘・卯の花・あやめ草・藤などと取り合わせて夏の季節感を歌う。

 この鳥の名はたとえば『本草綱目啓蒙』(十九世紀)によると、

  ウナヒ イモセドリ トキハドリ シヅドリ タヲサドリ タマムカヘドリ

など和漢名五十二種ある。その中、シデノタヲサ・カガミクレ・タカケ・クサツクなどは鳴き声を言葉に聞きなしたもの。今でも、天辺カケタカ・本尊カケタカ・不如帰去と聞き、昔話にホウチカケタカ(岐阜荘川村)、弟(おとと)恋し(新潟牧村)とある。

 江戸時代には、町サヘイツタケトカ、アツチャトテタ、コツチャトテタ、ボツトサケタ(菅江真澄「はしわのわかば」)と聞くほととぎすは、庶民に身近なものである。万葉では、「名のり鳴くなるほととぎす」(4084)とあるから、その名前は鳴き声に由来すると自覚していた。万葉人の聞きなしが、「ほととぎす」という名のルーツである。

 夏~秋まで昼夜を問わず我が家の近くで ≪許可局東京特許許可局許許許許許特許許許≫と聞こえてくる鳴き声を、1300年前の東国では≪トキスギニケリトキスギヌ≫とでも聞いていたのかもしれない。

(藤原茂樹)

 

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