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第12回 化粧と眉のいろいろ(藤原茂樹)

2023年10月30日

 

振り放(さ)けて 三日月見れば 一目(ひとめ)見し 人の眉引(まよび)き 思ほゆるかも 

巻六・九九四 大伴家持

  

(現代語訳)

はるかに空を振り仰ぎ 浮かぶ三日月を見ると ただ一度きり見た人の 引いた眉の形が 思われてなりません

 大伴家持(十六歳)の初々しいまなざしが、叔母大伴坂上郎女の美しい眉の様子を思い描いた歌である。

 平安時代、貴族の女性は顔を隠す。白粉を塗り、暗い中でも引き立つ白顔にして、色彩豊かな衣裳で装う。眉を抜き、眉かきをする。樋口清之『化粧の文化史』は、眉の引き方を、

がび はちもんじまゆ ももまゆ おとこまゆ ぼうまゆ はんげつまゆ よこまゆ てんまゆ いちもんじまゆ ひらまゆ

と紹介する。

作り眉の名は、他に

鶯眉 朏眉(みかづきまゆ) 諼眉(わすれまゆ) 霞眉 大形岸立眉(おおがたきしだたてまゆ) 唐眉

(『安斎随筆』後篇四 十八世紀)

もみえる。

時代差年齢差もあったようだ。万葉時代(奈良時代)の女性はどのような化粧をしていたのであろうか。

桃の花 紅色(くれなゐいろ)に にほひたる 面輪(おもわ)の内に 青柳(あをやぎ)の 細き眉根(まよね)を 笑(ゑ)みまがり 朝影(あさかげ)見つつ 娘子(をとめ)らが 手に取り持てる まそ鏡

(大伴家持 霍公鳥と藤の花とを詠む一首 巻十九・四一九二抜粋)

〈訳〉桃の花の紅色に染めて輝く顔のうちに、芽生えたばかりの青柳みたいに細い眉の根元を微笑み曲げ、朝の顔を映し出して見ながら娘たちが手にもっている鏡

頬を紅色にほんのり染めて、眉を春柳のように細く引き、寝起きのまどろむ美しい朝の顔を手鏡に映し出す。古代女性の面差しは、樹下美人図や高松塚古墳壁画の女性が印象深い。その眉をみると。前者の眉は、上へりをくっきりと半月にし、眉山から眉尻にかけてだんだん太くしそのまま毛先をぼかすようにしている。蛾の触覚をモデルにする蛾眉。高松塚の女性の眉は、やや異なり、眉根から尻にかけてすっと細く引き、眉尻は下へ傾斜させ閉じるようにみえる。「青柳の細き眉根」「薄き眉根」(二九〇三)、「柳の葉を眉の中に開き」(八五三)と形容される眉に近い。

 家持が思い描く初月(みかづき)の眉は、これにゆるやかな丸みをつけたものか。

坂上郎女が娘の坂上大嬢の眉を「撓(とを)む眉引(まよび)き」(四二二〇)とするのが参考になる。細い眉の曲線は、やわらかな微笑の顔をもたらす。

(藤原茂樹)

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