高岡市万葉歴史館
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第16回 初子の玉箒(藤原茂樹)

2023年12月30日

 

 初春(はつはる)の

 初子(はつね)の

 今日の玉箒(たまばはき)

 手に取るからに

 揺らく玉の緒(を)

    巻二十・四四九三 大伴家持

初春の初子の今日の玉箒 手で触れるとかすかに揺れて響く玉の緒

 

 正月初子の日(その年のはじめの子の日)に、宮廷では、天皇が田を耕し皇后は蚕室(さんしつ かいこべや)を掃いて養蚕の神を祀る儀式を行っていた。
 歌は、天平宝字二年(七五八年)正月三日(初子)に大伴家持が詠んだもので、大蔵省の務めがあって奏上できなかったようだが歌日誌に記録してくれている。当日の儀式に使用した「子日目利箒」(ねのひのめとぎのほうき)と「子日手辛鋤」(ねのひのてからすき)が、千二百六十六年も経ているというのに偶然にもその実物が二本現存している(正倉院南倉75 子日目利箒1号2号)。

 箒はキク科のコウヤボウキの茎を束ねたもので、枝に黄・緑・褐色のガラス製の小玉をたくさん貫き散らしていて晴れ晴れとした出来映えである。持ち手は紫染めの革の巻飾りに一は金糸、一はガラス玉を雲繝(うんげん 濃⇒淡 淡⇒濃と層をなす彩色法)に連ね、二本一対である(『正倉院宝物南倉Ⅱ』解説による)。この箒と鋤とを置くための色鮮やかな台二点と机の覆い「緑紗几覆」(みどりしゃのつくえのおおい)や、机に結ぶ帯なども残っていて、古代人の色彩感覚や形体の好みなどをつたえている。

 明後日から新年がはじまる。2024年は、現在の暦では、元日が日干支の最初の「甲子の日」にあたる。つまりあさってが初子日となり、それを慶びとする風習は特にないのだが、およそ60年に一度の割合なのだろうから、個人的にめでたさの重なる日と思うことにする。

新しき年のはじめの初春の今日降る雪のいやしけよごと

(大伴家持 万葉集巻二十4516)

 万葉集最終歌が新年の元日と二十四節気の立春が重なった日に歌われていて、暦の重なりによろこびを感じようとする知性はいまという時間帯を自覚するよい方法だと思う。

 万葉歴史館では、正月特別展として、この玉箒の正倉院宝物模造品を展示中である。お越しいただいて、万葉びとの感性が現代人の感性とどう響き合うか、見て楽しんでいただきたい。

(藤原茂樹)

画像は吉田包春制作・正倉院模造宝物「子日目利箒」「粉地彩絵倚几」(高岡市万葉歴史館蔵)

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