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第25回 身を削る恋(藤原茂樹)

2024年06月30日

恋にもそ

人は死にする

水無瀬川(みなせがは)

下(した)ゆ我痩(あれや)す

月に日に異(け)に

巻四・598

笠女郎(かさのいらつめ)

〔現代語訳〕

恋のために 人は死にもするようです 水無瀬川の 見えない水のように 人知れず私は 痩せ衰えてゆきます 月日を追うごとに

 

 

 一途な恋わずらいをすると、誰の目にもはっきりとやせ細り痛々しい思いをさせる人がいる。痩せ過ぎることは、寿命を縮めることになりかねないから、恋もほどほどがよい。
 とはいえ、一度恋の奴(やつこ)に掴(つか)まれてしまったら、ふり解(ほど)くのは難しい。それまで大事だと思っていたものが色褪(あ)せて価値を失う恋もある。だが、好きな相手さえ思い通りにならない現実の方が多い。

思ひにし 死にするものに あらませば 千度(ちたび)そ我(われ)は 死に反(かへ)らまし

巻四・603 笠女郎

恋の思いで死んでしまうのだったら、わたしなんか何度でも、千回だって繰り返し死んでいますわ

 
皆人(みなひと)を 寝よとの鐘は 打つなれど 君をし思へば 寝(い)ねかてぬかも

巻四・607 笠女郎

皆人よ寝静まれと時の鐘が鳴るけれど、貴方を思うと眠ろうとしても眠れやしない

 恋人の訪れを待ちながらの失望の夜の繰り返しが、笠女郎を恋にやつれさせ日々の死に追いやる。身分違いの恋に落ち、悲しみと辛さを痛いほど受けて、焦燥の中で恋の舞台から遠ざかっていった哀れな女性

大舟の 泊(は)つる泊まりの たゆたひに 物思ひ痩せぬ 人の児(こ)故(ゆゑ)に

巻二・122弓削皇子

紫の 我が下紐(したひも)の 色に出(い)でず 恋ひかも痩せむ 逢ふよしをなみ

巻十二・2976 作者未詳

一重(ひとへ)のみ 妹(いも)が結ばむ 帯をすら 三重に結ぶべく 我(あ)が身はなりぬ

巻四・742 大伴家持

 万葉びとは切ない恋に身を細らせた。そして行く先の見えない命のかそけさを訴える。それは恋が心ばかりでなく体をも追い詰めるものだから。

 (藤原茂樹)

 

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