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第26回 百合のいろいろ(藤原茂樹)

2024年07月30日

油火(あぶらひ)の

光に見ゆる

我(わ)が縵(かづら)

さ百合の花の

笑(ゑ)まはしきかも

巻十八4086 大伴家持

 

〔現代語訳〕

油火の 光にゆらゆら輝いて見える あなたにもらった私の花縵 さ百合の花の なんとも微笑(ほほえ)ましいことよ

 

 

 大伴家持が越中国守のとき、部下の開いた宴に招かれた。そのとき、百合の花かずらを贈られた主賓の家持が詠んだ歌である。

 ユリの花は、古事記に早くも詠まれていて、日本人には古くから親しまれていた。生命力がつよく、咲き方は品よく、わが家でも、裏庭の日の当たらない片隅で、誰にもみられはしないのにひとり静かにほほえんで、うなだれながら夏前半をすごしていつのまにか消えている。

 日本のユリは、クルマユリ・ヒメユリ・スカシユリ・テッポウユリ・ササユリ・ヒメサユリ・ノヒメユリ・コオニユリ・オニユリ・ヤマユリ・カノコユリなどがある(『原色日本植物図鑑』)。世界にユリの原種は約八十種あり、六分の一は日本に分布し、日本は百合の宝庫とのこと(湯浅浩史『花の履歴書』)。

 『万葉集』ではユリは十一首歌われるが、原文表記は由利五例・由里一例・由理三例で、「筑波嶺の『佐由流能波奈』」(さゆるのはな4369)一例が訛(なま)る。いま一例が「草深白(百)合」(くさふかゆり2467)とあり、白・百の表記がゆれる。牧野富太郎『植物知識』は、百合の字は白い花を咲かせる中国特産の一種のユリ(Lilium sp.)をさし、日本産のユリでこれに該当する植物はないため、日本のいずれのユリにも百合の漢字をあててはならないとする。万葉にすでにその厳密を欠く態度が出はじめていたということか。万葉のユリは、サユリ(ル)八例・草深ユリ二例・ヒメユリ一例だから、ヒメユリ以外は種類を特定しがたい。ただ、近畿での歌は、静岡・新潟以西・四国・九州自生のササユリを想定し、ササユリの自生しない関東のユリは、中部地方以北の本州自生のヤマユリとみられている。

では、越中での本歌はというと、その香りと淡紅色の可憐な美しい花でつくる縵はササユリであろう。いまも富山にはササユリが多い。

なでしこをやどに蒔(ま)き生(お)ほし夏の野のさゆり引き植ゑて咲く花

(4113大伴家持)

というササユリは、蒔いて育てるナデシコと違い、種からの栽培が難しく、家持はそのことも知っていて、夏野から引きぬいて庭に植えたようだ。越中の夏を、若き国守は、楽しみをみつけてやりすごしていたのである。

 (藤原茂樹)

 

 

 

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