まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
006回「ほととぎす 鳴きて過ぎにし 岡辺から」
2020年08月23日

ほととぎすが
鳴いて通っていった
岡のあたりから、
もう秋風が吹いてきました。
(いとしい人の着物を着て寝る)
手だてもないのに。
ほととぎす 鳴きて過ぎにし 岡辺(をかび)から 秋風吹きぬ よしもあらなくに
大伴池主(おおとものいけぬし) (巻17・三九四六)
連載5回の歌に続く池主歌三首目のうちの最後の一首。
「よしもあらなくに」は、第5回の歌「妹が衣手 着むよしもがも」(いとしい人の温かな衣に包まれて一緒に寝る手だてがあればいいのに)を受けた表現です。
歌が詠まれた旧暦八月七日は中秋にあたり、新緑の季節に東南アジアから飛来した渡り鳥であるホトトギスが帰ってしまう時期。ホトトギスがしきりに鳴いて過ぎていった岡からは、もうひんやりとした秋風が吹く頃になっているのです。
家持はこの夏の渡り鳥が大好きでした。数年前から越中に着任していた池主は、ホトトギスを引き合いに、家持にこの地の秋の訪れの早さを伝えたかったのでしょう。(田中夏陽子)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。