まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
026回「わが背子は 玉にもがもな ほととぎす」
2020年10月30日

あなたが
玉であればよいのになあ。
ほととぎすの
声と一緒に糸に通して、
手に巻いて行きたいものだ。
わが背子(せこ)は 玉にもがもな ほととぎす 声にあへ貫(ぬ)き 手に巻きて行かむ
大伴家持(巻17・四〇〇七)
大伴家持が、仕事のため一時的に平城京に帰ることになったとき、大伴池主(いけぬし)に贈った歌です。
現代と違い、当時の旅は危険なものだったので、無事に再会できるかどうか不安な気持ちは強かったようです。離れたくないという思いをこめて、「あなたが玉であれば腕輪にして手に巻いて、一緒に行けるのに」と詠みました。
ホトトギスの声を、玉と一緒に糸に通すことは実際にはできません。この発想はみやびな願望の表現で、藤原鎌足の娘・五百重娘(いおえのいらつめ)の歌にも
ほととぎす いたくな鳴きそ 汝(な)が声を 五月(さつき)の玉に あへ貫(ぬ)くまでに
ホトトギスよ、ひどく鳴かないでおくれ。おまえの声を五月五日の薬玉(くすだま)に交ぜて緒に通すまでは。
五百重娘(巻8・一四六五)
と見える古くからの表現です。当時としてはおしゃれな表現だったのでしょう。(井ノ口史)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。