まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
028回「うら恋し わが背の君は なでしこが」
2020年11月12日

心恋しい
あなたは、
なでしこの
花であればよいのに。
そうしたら、毎朝毎朝見られるのに。
うら恋(こひ)し わが背(せ)の君(きみ)は なでしこが 花にもがもな 朝な朝な(あさなさな)見む
大伴池主(おおとものいけぬし)(巻17・四〇一〇)
大伴家持の歌(第26回)への返歌です。
男性である家持に対して、「あなたがなでしこであったらいいのに」と歌うのは少し不思議に思えますが、ナデシコということばには、「撫(な)で」(やさしくいつくしむ)という語が含まれていますから、相手を大切に思う気持ちをこめて、この花を選んだのかもしれません。
家持のかつての恋人であった笠女郎(かさのいらつめ)も、家持に対して「毎朝見る庭のナデシコであってくれたら嬉しいのに」
朝ごとに 我が見る屋戸(やど)の なでしこが 花にも君は ありこせぬかも
笠女郎(巻8・一六一六)
と歌っていました。(井ノ口史)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。