まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
061回「なでしこが 花見るごとに 娘子らが」
2021年07月10日
なでしこの
花を見るたびに、
あの娘(こ)の
笑顔のあでやかさが
思い出されてならない。
なでしこが 花見るごとに 娘子(をとめ)らが 笑(ゑ)まひのにほひ 思ほゆるかも
大伴家持(巻18・四一一四)
題詞に「庭中の花の作歌一首 并(あは)せて短歌」とある長歌の反歌で、家持が越中赴任時代に生活をしていた国守館(こくしゅかん)の庭に咲くナデシコを詠んだ歌です。
詠んだのは旧暦の五月二十六日(太陽暦の七月中旬)で、ナデシコの花盛りの頃。長歌(四一一三)によると、家持は妻がいない単身赴任の淋しさを、庭に蒔いて咲かせたナデシコを見てなぐさめていたようです。
「娘子(をとめ)ら」は妻の坂上大嬢(さかのうえのおおいらつめ)を指しています。「ら」は、ここでは複数を意味するのではなく親しみをあらわす接尾辞。「笑まひのにほひ」は、香りではなく笑った時の顔色の美しさのことです。(田中夏陽子)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。