まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
071回「もののふの 八十娘子らが 汲みまがふ」
2021年09月22日

(もののふの)
たくさんの娘子たちが
入り乱(みだ)れて水を汲む、
寺井のほとりの
かたくりの花よ。
もののふの 八十娘子(やそをとめ)らが 汲(く)みまがふ 寺井(てらゐ)の上(うへ)の 堅香子(かたかご)の花
大伴家持(巻19・四一四三)
「もののふの」は「八十(やそ)」に掛かる枕詞で、数の多いことを象徴的にいう表現。
水を汲むのは女性の仕事で、大勢の娘子たちが入り乱れて賑やかに水を汲んでいる情景を詠っています。
その井戸のほとりには10㎝ほどの丈(たけ)の花茎(かけい)のユリ科の多年草の堅香子(片栗(かたくり))の花が群れ咲いており、娘子たちの姿と、清楚可憐な花とが映発し合って新鮮です。
万葉集中「堅香子」が歌われたのはこの一首のみ。万葉集に一例しか見えない語を「孤語(こご)」と称し、堅香子はその一つ。堅香子は高岡市の「市の花」です。(坂本信幸)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。