まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
083回「藤波の 影なす海の 底清み」
2022年01月13日
藤の花が
影を映している水海(みずうみ)の
水底(みなそこ)までが清く澄んでいるので、
沈んでいる石も
真珠だと私は見てしまう。
藤波の 影なす海の 底清(そこきよ)み 沈(しづ)く石をも 玉とそ我見(あがみ)る
大伴家持(巻19・四一九九)
天平勝宝二年(七五〇)四月十二日(太陽暦で五月二十五日)、布勢の水海(ふせのみずうみ)にやってきた家持は、多祜の浦(たこのうら)に舟を泊めて藤の花を遠くから眺めてこの歌を詠みました。
「藤波(ふぢなみ)」は藤の花房を波に見立てたことばで、家持や彼の周りの人たちに好まれた表現です。その揺れる藤の花が「影なす海」と歌うことで、藤の花房があたかも水海に立つ波そのものであったかのような印象を与えています。
さらに、沈んでいる石が真珠に見えるほど水が清く澄んでいると歌いまとめることで、家持は、布勢の水海のすばらしさを表現しています。(新谷秀夫)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。