高岡市万葉歴史館
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越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~

102回 大伴家持の長歌・その2~「二上山の賦」~

2022年06月01日

 

…神(かむ)からや そこば貴(たふと)き

 山からや 見が欲しからむ…

…この山の神性ゆえにあんなにも貴いのだろうか

 山のもつ品格のせいで見たくてならないのだろうか…

 

 高岡市と氷見市にまたがる二上山(ふたがみやま)。標高274メートルと決して高くはありませんが、県西部の広い範囲から目にすることのできる山です。家持が過ごした越中国府(現在の高岡市伏木)はこの二上山の山すそにありました。

 天平19年(747)3月、家持は「二上山の賦(ふ)」を作ります。全編にわたって二上山の素晴らしさを説いたこの作は、翌月に作った「布勢の水海に遊覧する賦」「立山の賦」と合わせて、都への土産話にしたものだと考えられています。

 「神からや そこば貴き(この山の神性ゆえにあんなにも貴いのだろうか)」「すめ神の 裾廻の山の(この神の住む山の)」と、山に神の存在を感じていますが、仏教以前の日本の古い信仰のひとつのかたちをここに見ることができます。

 連載第21回・22回ではこの長歌の反歌について書いていますのでそちらもご覧ください。

(鈴木崇大)

 

賦(ふ)

中国の漢詩文の文体の名称。長くリズムがある。

 

 

二上山の賦一首 この山は射水郡(いみづのこほり)にあり

二上山の賦一首 この山は射水郡にある

 

射水河(いみづかは) い行きめぐれる 

射水河がふもとをめぐって流れゆく

玉くしげ 二上山は 

(たまくしげ)二上山は、

春花の 咲ける盛りに 

春花の盛りの時も、

秋の葉の にほへる時に 

秋の葉の色づく時にも、

出で立ちて ふりさけ見れば

外に出て振り仰いで見ると、

神からや そこば貴き 

この山の神性ゆえにあんなにも貴いのだろうか、

山からや 見が欲しからむ

山のもつ品格のせいで見たくてならないのだろうか。

すめ神の 裾(すそ)みの山の

だからこそ、この神の住む山のふもとの山の、

渋谿(しぶたに)の 崎の荒磯(ありそ)に

渋谿の崎の荒磯に、

朝なぎに 寄する白波 

朝なぎのときにうち寄せる白波や、

夕(ゆふ)なぎに 満ち来る潮(しほ)の

夕なぎのときに満ちてくる潮のように、

いや増しに 絶ゆることなく

いよいよますます絶えることなく、

いにしへゆ 今のをつつに

遠い昔から今に至るまでずっと、

かくしこそ 見る人ごとに 

こんなにも見る人すべてが、

かけてしのはめ

この山を心にかけてほめたたえるのだろう。

(巻17・三九八五)

 

 

 

 

 

【さらに詳しく知りたい方へ】

高岡市万葉歴史館編

『越中万葉百科』

笠間書院・2009年刊

458頁・定価2600円(税別)

 

 

※引用した歌本文は、上記の『越中万葉百科』によります。