高岡市万葉歴史館
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まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~

103回 大伴家持の長歌・その3~「布瀬の水海に遊覧する賦」~

2022年06月08日

 

…あり通(がよ)ひ いや年のはに

 思ふどち かくし遊ばむ 今も見るごと

…通いつづけてずっと毎年、

 気心知れた仲間同士、こうして遊ぼう。今見ながら楽しんでいるように。

 布勢の水海とは、現在の氷見市仏生寺川流域に広がっていた潟湖のことです。江戸時代の干拓により、現在では十二町潟水郷公園にその面影を偲ぶことができるのみです。

 家持はここでの舟遊びをことのほか気に入り、少なくとも4回訪れています。天平20年(748)、都からの橘諸兄の使者・田辺福麻呂が来越した際も部下と共にそろってここを訪れ、皆で歌を詠んでいます。

 今回取り上げる「布勢の水海に遊覧する賦」は、天平19年(747)の夏、おそらく初めての訪問の時に詠まれた歌です。船を浮かべて眺める景色を「ここばくも 見のさやけきか(これほどにすばらしい眺めはほかにあるだろうか)」と絶賛しています。都では船遊びの機会もなかなかなかったでしょうから、その感動もひとしおだったに違いありません。(鈴木崇大)

田辺福麻呂(たなべのさきまろ)

奈良時代の歌人。万葉集に長歌10首、短歌34首が残る。

 

 

 

布勢の水海に遊覧する賦一首 この海は射水郡の旧江村にあり

布勢の水海に遊覧する賦一首 この水海は射水郡旧江村にある

 

もののふの 八十伴(やそとも)の男(を)の 

(もののふの)たくさんの官人たちが、

思ふどち 心遣(や)らむと 

親しい者同士で気晴らししようと、

馬並(な)めて うちくちぶりの 

馬を連ねて、うちくちぶりの、

白波の 荒磯(ありそ)に寄する

白波が荒磯に寄せる

渋谿(しぶたに)の 崎たもとほり

渋谿の崎の崎をぐるりとめぐり、

麻都太要(まつだえ)の 長浜過ぎて 

麻都太要の長浜を通り過ぎて、

宇奈比河(うなひがは) 清き瀬ごとに

宇奈比河の清らかな瀬ごとに

鵜川(うかは)立ち か行きかく行き

鵜飼を楽しんだり、あちらこちらに行って、

見つれども そこも飽かにと

見てまわったけれど、それでも物足りないと、

布勢(ふせ)の海に 舟浮け据(す)ゑて

布勢の水海に舟を浮かべて、

沖辺(おきへ)漕ぎ 辺(へ)に漕ぎ見れば 

沖を漕ぎ岸辺を漕ぎなどして見わたすと、

渚(なぎさ)には あぢ群騒(さわ)き

波打ち際にはあじが群れ遊び、

島廻(しまみ)には 木末(こぬれ)花咲き

島のまわりには木々の梢に花が咲いていて、

ここばくも 見(み)のさやけき 

これほどにすばらしい眺めはほかにあるだろうか。

玉くしげ 二上山(ふたがみやま)に

(たまくしげ)二上山に

延(は)ふつたの 行(ゆ)きは別れず

はい延びた蔦のように、別れ別れになったりせず、

あり通(がよ)ひ いや年のはに

通いつづけてずっと毎年、

思ふどち かくし遊ばむ 

気心知れた仲間同士、こうして遊ぼう。

今も見るごと

今見ながら楽しんでいるように。

(巻17・三九九一)

 

(谷口紅雲「布勢の海の……」)

 

 

【さらに詳しく知りたい方へ】

高岡市万葉歴史館編

『越中万葉百科』

笠間書院・2009年刊

458頁・定価2600円(税別)

 

 

※引用した歌本文は、上記の『越中万葉百科』によります