高岡市万葉歴史館
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まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~

104回 大伴家持の長歌・その4~「立山の賦」~

2022年06月15日

 

…すめ神の うしはきいます

 新川(にひかは)の その立山に…

…国の神が鎮座されている

 新川郡のその名も高き立山には…

 

 富山県南東部に延びる北アルプスの連峰が立山です。大汝山・雄山・劔岳などの3000m級の山々が連なり、雨晴海岸から眺める「海越しの立山」は富山県を代表する風景のひとつです。

 二上山のふもとで暮らし、その景色を愛でていた家持ですが、立山も当然毎日目にしたことでしょう。都のある畿内には高い山はないこともあり、常夏の雪を抱く立山は神々しく見えたようです。連載第24回の反歌でも「神からならし(神の山だからにちがいない)」と歌っています。

 第102回でも述べましたが、「越中三賦(さんぷ)」と呼ばれる「二上山の賦」、「布勢の水海に遊覧する賦」、そしてこの「立山の賦」は、家持が公務で都に戻る際の土産話であったと考えられています。「越中にはこんなに素晴らしい場所があるんだよ」という家持の気持ちを読み取りたいところです。(鈴木崇大)

 

 

 

立山(たちやま)の賦一首 并せて短歌 この立山は新川郡にあり

立山の賦一首 と短歌 この立山は新川郡にある 

 

天ざかる 鄙(ひな)に名かかす 

(あまざかる)鄙の地のなかでも名高い

越の中 国内(くぬち)ことごと

越中の国中のいたるところに、

山はしも しじにあれども 

山は数々あり、

川はしも さはに行けども

川はたくさん流れているが、

すめ神の うしはきいます

国の神が鎮座されている、

新川の その立山に

新川郡のその名も高き立山には、

常夏(とこなつ)に 雪降り敷きて

夏だというのに雪が降り積もっていて、

帯(を)ばせる 片貝河(かたかひがは)の

山裾を流れる片貝川の

清き瀬に 朝夕(あさよひ)ごとに

清らかな瀬に朝夕ごとに

立つ霧の 思ひ過ぎめや

立つ霧のように、この山を忘れることなどあろうか。

あり通(がよ)ひ いや年のはに

通いつづけて、ずっと毎年、

よそのみも ふりさけ見つつ

遠くからでも仰ぎ見て、

万代(よろづよ)の 語らひぐさと

万代の語りぐさとして、

いまだ見ぬ 人にも告げむ

まだ見たことのない人にも話そう。

音(おと)のみも 名のみも聞きて

噂だけでも名前だけでも聞いて、

ともしぶるがね

うらやましがるように。

(巻17・四〇〇〇)

水野敬雄「黄昏に染まる」

 

 

【さらに詳しく知りたい方へ】

高岡市万葉歴史館編

『越中万葉百科』

笠間書院・2009年刊

458頁・定価2600円(税別)

 

 

※引用した歌本文は、上記の『越中万葉百科』によります。