まんれきブログ -
越中万葉歌を読む~越中万葉かるたの世界~
012回「かからむと かねて知りせば 越の海の」
2020年09月13日

こうなると
前々から知っていたならば、
この越の海の
荒磯にうち寄せる波も
見せてやるのだったのに。
かからむと かねて知りせば 越(こし)の海の 荒磯(ありそ)の波も 見せましものを
大伴家持(巻17・三九五九)
越中に赴任してどれほども経っていない天平十八年九月二十五日、家持は弟・書持(ふみもち)の突然の逝去の知らせを都から受けとりました。その時に詠んだ挽歌(ばんか)です。
書持は、家持より数歳年下だったと思われます。花々を愛し、庭にたくさんの花を植える弟でした。
「越の海の荒磯(ありそ)」は、越中国庁(えつちゅうこくちょう)からほど近い「渋谿(しぶたに)の磯」[現在の雨晴(あまはらし)海岸付近]のことです。
歌の「荒磯」は、岩の露出した荒涼とした磯を意味する一般名詞でしたが、この歌の伝承の過程で、後世「有磯海(ありそうみ)」として越中を代表する歌枕の一つとなりました。
芭蕉の『奥の細道』の「早稲の香や 分入る右は 有磯海」は、越中で詠まれた唯一の句です。連載第9回も参照ください。(田中夏陽子)
高岡市万葉歴史館編
『越中万葉を楽しむ 越中万葉かるた100首と遊び方』
笠間書院・2014年刊
フルカラーA5判・128頁・定価1000円
※本文の中で引用した歌の読み下し文は、高岡市万葉歴史館編『越中万葉百科』(笠間書院)によります。